イモ、いも、芋。

四月に入ってすぐ、ジャガイモを植え付けた。他の地方にくらべて遅れ気味のようだが、なにせ日光は春が遅い。せっかく萌芽したところを遅霜にやられて全滅したことが何度もあるので、気温の見きわめがとてもむずかしいのだ。
じじつ一昨日には、マイナスまで気温が下がり霜が降りたし、そのまま暖かくならず今朝になっても薪ストーブを焚いているくらいだ。あせって早植え付けしていたら霜焼けに往生していたかもしれない。

いま思い出したが、日光に移住したてのころ、発芽してしまったジャガイモを埋め込んだのが、初めての農作業だったような気がする。
土をまっすぐ掘り返し、捨てる代わりに植えたようなもので、もちろん肥料なし、草取りなし、土寄せなどという知識もなかったが、小粒ながらもそれなりの収穫があったのだろう。たぶんポテトフライにしたはずだが、なかなか美味かった、と記憶している。

それからはじめたジャガイモ栽培だが、種イモを購入したり、食べ残しを植え付けたりといろいろだし、別段変わった栽培方法もしていない。土壌のPH調整に薪ストーブの灰を利用していたが、震災いらい自家灰が仕えず、購入した貝殻石灰を使用し、30センチ間隔で種イモ、その間に肥料(鶏糞)をひとつかみ置いて覆土している。
また黒マルチをかぶせることもあるが、発芽時期にマルチの穴開けが遅れ、ビニール熱で芽が焼けてしまった。そこで今年は稲わらマルチにした。当然、草取りをしなくてはならないが、ひょっとしたら猿害除けのため草ボウボウにしておくかもしれない。

まだ観察中なのだが、どうやら猿どもに、畑の作物をばかりを狙っている気配がある。たとえばサツマイモは猿の大好物だが、ヤギ小屋の屋上緑化のため袋栽培したサツマイモは無事だったことがある。まさか屋根の上でイモが植え付けてあるなど思いもしなかったのだろう。
また畑のはずれに捨てたジャガイモが発芽して、なおかつ見事に実ったのを目撃している。当然、整備された畑ほど収穫が多いわけだが、そのことを猿どもが学習したのかもしれない。だとするなら、ちゃんとした畑に整然と一列に栽培するのは、
「ここにイモがありますよ」
と教えるようなものではないか、と植え付けながら思いついてしまった。そのための黒マルチ除外だったわけだ。
ひょっとしたら草ボウボウにすれば、あるいは一列ではなくランダム植えにすれば、猿たちもよほど戸惑うのではないか、などとも思う。こうした叢生栽培もどきの猿害対策については、いずれお知らせすることがあるかもしれない。

その点、里いもはいい。なぜか猿たちにまったく狙われないのだ。土地の人に聞いても、さあ、と首をひねるばかり。
「喰ったら口のまわりが痒くなるんでないかい?」
ということになっていて各戸必ず栽培している。このあたりでは土垂れという品種が多いようだが、わが家では、「きぬかつぎ」にすると美味な石川早生を毎年つくっている。

秋収穫したら親芋から外さず、そのまま地下室(または土の中)に保存しておき、春先バラバラにほぐしてポットに仮植え、日当たりのよい暖かな所に置いて「芽出し」をする。発芽するにはひと月以上かかり、芽が10センチほどになる6月ごろに本植えする。

という準備作業の合間に「芋奉行青木昆陽」を配信しました。名奉行大岡越前守に見出され、甘藷(さつま芋)栽培に成功した青木文蔵が古書探索に出掛け、数々の難事件を解決する一話完結連作集です。

四月のリンゴ

 梅が咲き、桜が咲きだしていよいよ春めいてきた。そんな四月になった玄関でリンゴがいい匂いを放っている。
 わが家の玄関は、居間とはドアで隔てられて風除室の代わりとなっている。そのため室温が低く、野菜や果物を置いておくのにちょうどよいのだが、昨年末にいただいたリンゴ6,7個が置き放しになって匂っているのだ。

 何となく食べ損なったのだろう。もう傷んでるかもしれないな、と皮をむいてみるとそうでもない。すこしやわらかになっていて、さすがにリンゴ独特のパキッとした食感はのぞめそうにない。
 ならば捨てるか、というのはわが主義に猛然と反する。そうしたときアップルパイ風揚げ餃子につくってしまうのがわが家風、というよりわがケチケチ料理のひとつというわけだ。
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 リンゴの皮をむき、芯を取って刻む。そいつをバターで炒め、砂糖で味をつける。リンゴ一個あたり大さじ山盛り1の割合にしているが、いつものようにこれは適当。シナモンを入れれば、よりアップルパイ風味になるようだが、試したことはない。
 よく煮詰めて水分を飛ばしたものを餃子の皮で包み、そのまま素揚げする。中身は火が通っているので、皮が色よく、カリッと揚がればそれでよし。
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P1240388 アツアツが美味しいが、冷めてもけっこういける。春巻きバージョンを試してみたがこれもわるくない。テーブルの上の大皿に積み上げておくと、通りがかりにヒョイとつまんだりして、いつのまにかなくなっている。

 それにしても「四月のリンゴ」というフレーズ、ちょっと気に入った。
「関係なさそうな言葉を二つならべるといいタイトルになる」
 と昔から言われているけど、これにぴったり。いかにも時期遅れな感じから「六日の菖蒲、十日の菊」を思い出してしまうが、そうした役立たずというより、フニャフニャとした頼りなさを感じさせる。
 しかし、まあ、時代小説には無理だろうな、と思いながら揚げたてをつまみ食いして、舌を火傷した。

春の酢漬け

 春めいてくると「春告げ魚」を思い出す。魚偏に春と書く「鰆…さわら」も「春を告げる魚」だそうだが、どちらかと言えば西日本での話であって、東日本では「鰊…にしん」を「春告げ魚」と呼んでいる。
 いきなりの余談だが、じつはこの「鰊」をずっと魚偏に東とばかり思っていた。しかし「鯟」と書くと「とう」と読み、まったく別の魚のようで、中国大陸に見られる白い鯉のような魚らしい。手書きに縁遠くなってずいぶん経つが、漢字のど忘れや間違いはいよいよ深刻だ。

 私の記憶では「ニシン」と言えば「身欠きニシン」だった。カラカラに乾いた「本乾もの」を米のとぎ汁に一晩漬け込み、醤油、みりん、酒、生姜を入れてこってり炊きあげた甘露煮は、惣菜によし、酒の肴によし。私にとってソウルフードのひとつと言っていい。

P1220966 冷蔵輸送が当り前になった近ごろは、店頭に「生ニシン」を見かけるようになった。ほとんどは塩焼きか煮付けにするようだが、鮮度のよさそうなものを選んで酢漬けにしている。これがここ数年の春行事のようになっている。

「ニシンの酢漬け」は、オランダが有名だが、ドイツやポーランド、北欧などでも大いに食べられている。そんなレシピをどこかで見つけた私なりの「ニシンの酢漬け」だが、けっこう気に入っている一品だ。

●生ニシン…3匹。
 お店に頼んで三枚に下ろし、腹の小骨もそぎ落としてもらう。たいがいの魚は下手なりに捌いてしまうが、にしんなど身がやわらかなものは苦手で、腹骨を落とすとなると、身肉がなくなってしまう。

にしん酢漬け003①塩をやや強めに振り、バットにならべて冷凍24時間。
 せっかくの「生ニシン」だが、アニサキス予防のため冷凍する。イカ、サバ、ニシンなどに寄生するアニサキスは、塩や酢で締めても死なず、胃壁に入り込むと七転八倒の激痛を起こすらしい。死に至ることはないようだが、2,3日でアニサキスが衰弱死するのを待たねばならない。
 ニシン王国オランダでは、マイナス20℃で24時間冷凍することが法律で義務づけられていると聞き、ならばと冷凍ニシンを使ってみたことがある。安価のうえ安心なら言うことなしだが、食味がもうひとつ感心しなかった。

②酢洗い・皮むき・そぎ切り。
 分量外の酢で塩と残ったウロコを洗い落とし、半解凍になったら皮をむく。身の柔らかいニシンでも塩と酢で締まっているから大丈夫。頭のほうの皮をつまんで一気にむいてしまう。あとはひと口大にそぎ切りにするが、中骨が気になるようなら毛抜きで抜く。

③漬け汁…以下を入れて混ぜておく。
オリーブオイル…1カップ。酢…4分の3カップ。黒コショウ粒…6、7粒。 塩・粗挽きコショウ…適宜 。粒マスタード…小さじ1。

④玉ねぎ1個分のスライスをつくり、保存ビンにニシンと交互に詰め、最後に漬け汁を注ぎ込む。好みでレモンスライス、白ワイン、砂糖、ディルその他を入れてもよい。

P1240328 冷蔵庫で一日おけば食べられ、よく漬け込んでも美味。玉ねぎやニンニクのみじん切りを添えてもよいが、味の決め手は酢にあるので、いろいろ試してみるといい。ちなみにわが家ではこれ

P1240383付言…ニシンを捌いてもらったら白子ががついてきた。もったいないのでアヒージョ(ニンニク、唐辛子入りのオリーブオイル煮)にしてみたが、やや臭みがあり、味も好みではなかった。要研究か。

もらったり拾ったり

P1240173 田舎に移住して以来、なにごとにつけて「もらったり拾ったり」を実践している。別段、自給を目ざしているわけではないが、金を出して買うなどというのは、最後の最後、どうしても入手不可能と判断したときの選択、ということになる。とくに自宅をセルフビルドするようになって、この傾向がより強くなった感じがあり、ほとんど病気ではないかと思うことさえある。

 しかし私だけではないようだ。ログハウスをセルフビルドする仲間に聞いてみると、例外なく「もちろん」とうなずくわけで、言ってみれば金科玉条ものであろう。たとえば「これ買ってみたんだ」と言っても、およそは「ふーん」といった鈍い反応しか返ってこない。ところが、
「いや、じつは拾ったものなのだ」
「へえー、どこで? もう一つなかった?」
「さあ、どうかな。ほかの人が拾ったみたいだが……」
「その人からもらえないかな。ねえねえ、紹介してよ」
 といった感じに話がはずむ。いや、もう、手のひらを返したような執心ぶりだ。

 そう言えば「もったいない」運動が話題になったことがある。ノーベル平和賞を受賞したケニア人女性のワンガリ・マータイさんが来日したさいに知った「もったいない」という言葉には、3RつまりReduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)にプラスしてRespect(尊敬の念)が込められている、と深く感銘をうけて始めた運動らしい。

「もらったり拾ったり」も似たような倹約精神から発しているが、少なくとも私の場合は、確たる思想や信念から生まれたものではない。ひたすら倹約したい一念で、どちらかと言えばケチに近いだろう。「もらったり拾ったり」して造ったはいいが、まるで役立たなかったり、さらなる加工のため新たな道具を購入、といった事態が度々ある。結果、最初から買ったほうが安かったりするわけだが、それでも満足なのだから世話はない。

 トップ写真の椅子もそうした一つだ。原型は餅つきに使う臼(うす)で、わが家正面の川岸に捨ててあったものだ。なにやら加工途中の痕跡があるところをみると、欅(けやき)のあまりの固さに断念したものらしく、ならばと拾ってきて椅子に加工してみた。
 ストーブ前に置くつもりだったが、なにせ固い材質なので座り心地がわるく、お尻が冷たい。さらには重いのも欠点で、どうにも使いにくかった。それなりに存在感はあるのだが、およそは役立たずとなって、とうとう単なる場所塞ぎとなってしまっている。

 ところで年明け早々、その川岸から拾いものをした。去年秋の集中豪雨のさい、田圃近くの川岸が崩れて立木が何本か倒れかかった。田圃の持ち主が伐採すると知って、すかさず駆けつけると、枝片付けを条件に「もらったり拾ったり」交渉をはじめた。
 おそらく実生の欅なのであろう。太さは30センチほどとすこし細いし、加えて水辺育ちだけに建材にはならない。軟らかいうえに乾燥に時間がかかるからだが、もっとも最近は、欅のように暴れやすくて扱い難い材木は大工さんに人気がないらしい。こっちは薪にするつもりだからそれは関係ないわけだが、
「薪にする? 欅だよ」
 といぶかしげな顔をされた。

 ご近所でも薪をつかう家はあるが、欅はあまりよろこばれない。すくなくとも囲炉裏ではまず焚かない。煙の刺激が強すぎて目によくないらしいのだが、ここではあえて書かないでおく。いずれ薪割りを話題にするときにでもくわしく書き触れてみたい。
 ともあれ煙を完全排出する薪ストーブではまったく問題ないわけで、そんなこんなで薪の原木集めの「もらったり拾ったり」交渉はめでたく成功した。しかしながら枝片付けやら、玉切りしたうえでわが家まで運びこむのに四日ほどかけたから、やはり買ったほうが安かったね、と言われてしまうと反論できない。