年忘れ燻製3種

 コロナ波乱の2020年を燻製3種で締めくくった。用意したのは豚の肩ロース、同バラ肉とホタテの貝柱だが、それぞれ塩漬け・味付けを違えながら、燻煙処理を同時にするという欲張った方法。スケジュール的に少しややこしいが、3種類をいちどきに完成させられるのがいい。

 2種類の豚肉は、基本的にはベーコンづくりと同じ方法。肩ロースは複雑な味付けと糸巻きをほどこしてハム風に仕上げ、バラ肉はシンプルな塩漬けのみで、強めに乾燥するパンチェッタ風だが、ベーコンのように燻煙と熱処理で完成させる。

 その手順は、豚肉2種の塩漬・熟成を1週間行ない、塩抜き時間を利用してホタテの味付けをすませ、3種それぞれ吸水シート(ピチット)処理を冷蔵庫で一晩。3種同時に燻煙をほどこし、湯煎処理あるいはオイル漬けで完成させる。

 と、それなりに複雑だが、時間的にむずかしい作業ではない。それぞれの工程、以前に掲載したこともあるが、復習のつもりで順を追ってみよう。

 まずは肩ロースから……。

①用意した肩ロースは2キロ超の塊り肉。国産肉が一番だが、輸入肉でも十分美味しく仕上げられる。

②脂部分を取り除き、二つに切り分けた。むろん脂肉は捨てず、豚汁の具に使ったりする。

③二つの約1キロの肉、肉刺し器、ハチミツ、塩スパイス類(小ボール)、タマネギスライス(大ボール)を用意する。

 肉1キロ当りの分量……岩塩25g 黒コショウ2g、オールスパイス2g、ローレル、セージ各1g、タマネギ1/3のスライス。

④肉挿し器で万遍なく突き刺す。フォークや金串でもかまわない。

⑤ハチミツ大さじ2を全体に塗る。スパイスに三温糖を加えてもよいが、最近はハチミツが持つ殺菌効果を利用することにしている。

⑥塩スパイスを混ぜ合わせ、肉全体によくすり込む。三温糖使用のときは酒大さじ1を振りかけていた。

⑦ビニール袋に肉を入れ、上下にタマネギを乗せる。ニンニクやセロリ、リンゴのスライスを加えたこともある。

⑧空気をよく抜いてタッパーに入れ、上に重しを乗せて冷蔵庫で熟成。ちなみに重しは、30年以上前の趣味だったダイビング用の鉛ウェイト。

⑨毎日上下を入れ替えて1週間熟成させ、塩抜きに水洗いする。タマネギや黒コショウなどを洗い落とす。

⑩以前の塩抜きは、流水に2~3時間浸す方法だったが、このところは溜めた水に漬け、1時間ごとに水を替える方法にしている。都合6時間ほども掛かるが、水量の節約になるほか、塩味にムラがない。

 容器の底に金網を敷いてあるのは、溶けだした塩分を溜めるため。最後は切れ端を焼いて塩味を確かめるが、すこし抜き過ぎぐらいで丁度よい。

⑪⑫⑬清潔な吸水布で水気を拭き取り、アルコールを吹きつけキッチンペーパーでぬぐった。

⑭吸水シート(ピチット)で包み

⑮冷蔵庫で一晩乾燥させる。

⑯型崩れを防ぐためタコ糸で縛る。さらし布で包む方法もある。

 バラ肉の処理。

①バラ肉2キロの塊り。余分な筋や脂を切り除く。

②万遍なく肉刺しを施す。

③パンチェッタ風にシンプルな味付けにした。●肉の5%の岩塩(2キロの肉なので100g)、黒コショウ③~4g、ローズマリーの小枝。

④⑤岩塩、黒コショウをよく揉み込む。

⑥バットに金網、ローズマリーを置き、

⑦バラ肉をのせ、ローズマリー。金網、重しをセットする。バラ肉を乾燥させるためラップはせず、鉛ウエイトにラップした。

⑧冷蔵庫で1日置き、金網下に溜まったドリップを捨て、バラ肉だけをさらに1週間乾燥させる。

⑨水洗いして表面の塩を流し落とす。

⑩溜め水で6時間かけて塩を抜き、同じように切れ端を焼いて味を確かめる。

⑪⑫吸水布でよく拭き取り、アルコールを吹きつける。

⑬⑭キッチンペーパーで拭い、吸水シート(ピチット)でつつむ。

⑮冷蔵庫で一晩乾燥させる。この乾燥処理で完成させればパンチェッタというわけだが、より保存性を高めるため燻煙と熱処理を加えた。

⑯ステンレスの金串で刺すと、燻煙中に型崩れしない。

 いよいよ燻煙。

 以前使用していたウィスキー樽のスモーカーは、二つの焚き口で冷燻にも利用できたが、今回は温燻なのでデッキに置いた箱形スモーカーを使う。

 スモーカー上部に吊り下げ、都合6時間の燻煙。底にセットしたコンロの豆炭を熱源とし、サクラの木片を直接乗せる。鉄鍋でチップを燻す方法もあるが、チップを買ったりするのは不本意。薪の棚からサクラ材を引っ張り出せばことはすむ。

 豆炭に直接乗せる原始的な方法のため、大きく燃え上がらないような工夫が必要だし、当然のように温度管理がむずかしい。サーモスタットが設置されたスモーカーであれば、65℃を長時間保つような熱処理が同時にできるが、わが家では湯煎による熱処理を別途行っている。

 熱処理の方法

①大きな寸胴がぬるま湯状態のときビニール袋入りの肉を吊す。湯に直接ふれさせないための工夫。

オーブン用温度計を突き刺して、肉内部の温度を測るようにしている。

③ハムなどの熱処理は63℃30分以上が基本。まず63℃まで湯温を高め、

④あとは70℃以下に保つようにして30分。75℃以上になると煮えた状態でボソボソに仕上がる。ここだけは付きっきりの作業と決めている。

⑤氷入りの水で一気に冷やして肉を引き締める。ちなみにビニール袋から取り出すさい、肩ロースからは多少の水分が溜まっていたが、よく乾燥させたバラ肉はほとんど出ていなかった。

⑥よく冷えたら水分を拭き取り、一晩寝かせるほうが味が落ち着く。

⑦切り口をみると、全体が平均した肉色に仕上がった。温度のまわりがよかった証拠で、温度が低いと生っぽくなり、高すぎると肉色が白くなっていることが多い。

 味についても満足でき、しっとりとした舌触りがわるくなかった。とくにパンチェッタ風味のバラ肉は、単純な塩味のはずなのに豚肉のうま味が強く感じられる。強い乾燥によって味が凝縮したのかもしれない。

 切り分けて使いやすい大きさに切り分け、真空パックで冷蔵保存している。大量のときは冷凍もするが、あまり長期間だと多少味が変わるようだ。

 ホタテの処理

 記事が長くなり過ぎた。レシピその他の詳細はここを参照してもらい、大切なポイントだけをお伝えするが、この味付け処理は、豚2種を熟成させ、最後の塩抜き(溜め水6時間)の合間に行う。

 前もって冷蔵庫に移してゆっくり解凍しておき、70℃で3分ボイルしたあと、氷水で一気に冷やす。ホタテを一つひとつ移していると余熱が入りやすいので、パスタ用の穴あき鍋を利用していちどきに引き上げている。

 用意したソミュール液(リンクページを参照)に2~3時間漬け込む。ここで味が決まるが、あっさりした味付けでホタテの風味を保つようにしている。

 軽く水洗いして水気を拭き取る。ここで味を確かめてもよく、かるくボイルしたカルパッチョとしてもけっこういける。

 2時間ほど風乾すればよいが、脱水シート(ピチット)に包んで冷蔵庫に置き、翌朝、豚肉と一緒に燻煙する。2時間ほどの軽い燻し味にしている。

 そのまま食べてもよく、一晩寝かせると味が落ち着くが、唐辛子とオリーブオイルで漬け込むのがお勧め。冬のいまごろなら常温保存が効き、まろやかな味は酒の肴に最適。残ったオイルはパスタに使うが、ほんのりしたホタテ味がわるくない。

 長々と書いてしまった。本来なら数回にわけてお伝えする分量だが、思うところあってクリアランス掲載した。そのあたりの事情は、来春早々に書くつもりでいる。