毒キノコを食う・スギタケ

 なんだか禍々しいタイトルになっているけど、ひさしぶりに「スギタケ」を食べた。2年半前に伐採した杉を切り株椅子に仕上げてあるが、ふと見たらキノコが生えている。それがなんと、懐かしい「スギタケ」なのである。

 日光に移住したのは、昭和最後の秋だったが、隣家の和ダンス工房の老職人ケンちゃんから両手にいっぱいの「キノコ」をいただいた。あるいは引っ越しあいさつのお返しだったかもしれない。それまで見たことのない種類の「キノコ」に、あらためて異郷を感じてしまったものだが、それが「スギタケ」だったのだ。

 伐採した杉林に群生するため「スギタケ」と名付けられたらしいが、砂利をまいた林道沿いに多いため、日光地方では「ジャリタケ」と異称し、千葉県では砂礫地によく生えると「スナタケ」と呼ばれている。

「食用で私もよく食べるが、数件の中毒例があるため、有毒キノコに分類される」
 と、あるキノコ専門家が書いてあったのを読んだ記憶がある。あらためて調べてみると、ネット情報のほとんどに「有毒」とあり、消化器系の中毒、アルコールと一緒に食べると悪酔いする、と書いたものもある。

「冷蔵庫に保存したのを食べたらお腹をこわしたことがある」
 とはウチの奥さんの証言だが、私にその記憶はないし、周囲で「食当たり」した話を聞いたことがない。どのような毒によるのかも不明らしいが、
「昔から食べられているきのこですが、人によっては(体調によっては、食べ合わせによっては)お腹をこわす可能性が希にあります」
 と、天然スギタケを販売しているサイトの注意書きにあった。

 ついでながら名前や形、発生場所がよく似た「ヌメリスギタケ」は、美味しいキノコとして知られている。また同じように杉や松の切り株に発生する「スギヒラタケ」は、種類も見た目もまったく違う白いキノコで、以前は美味しいとされてきたが、いまでは「有毒」と分類され、食べないよう農林水産省が告知している。かくもキノコはまぎらわしいので注意が必要だろう。

 ちなみに老職人ケンちゃんから、他人には絶対教えない「シロ」を、和ダンスを注文したお礼に教えてもらい、以来、毎年の楽しみにしていたが、原発事故のセシウム問題から野生キノコの食用を控えてきた。

 そうしたセシウム入りの、毒キノコの疑いがある「スギタケ」だが、自宅産とあれば、「食べないわけにはいかないわね」
 と奥さんが言い出した。やや尻込みぎみの私は「万が一のとき病院まで運転」を理由に、ほんの一口にすることで料理に入った。

 調理はかんたん。土鍋に豆腐を入れ、周囲に汚れを落とした(水では洗わない)スギタケを詰め、少量の醤油をかけまわす。あとはとろ火に10分ほどかければいい。「酒や砂糖などの調味料は一切入れない」のがケンちゃんのレシピだ。

 豆腐とスギタケの水分だけでほどよく煮える。杉のヤニ臭さが少し感じられるが、ナメコに似たヌメリと独特のうま味が豆腐に染みこんで絶品。それから三日目にこの原稿を書いているが、お腹をこわした兆候は、いまのところない。

サツマイモ袋栽培の収穫

 袋栽培のサツマイモを収穫した。つい先日までは、闘病中の山羊「らんまる」の好物なので、ぎりぎり枯れるまでは刈らずにおくつもりだったが、薬石効なく亡くなってしまった。植え付け後150日を過ぎていたし、初霜が降りそうな気配もあるが、なにより残念な気持ちに極まりをつけねばいけないので、きれいさっぱり刈り取ってしまおうと思った。

 もともと袋栽培は、ジャガイモ全滅をもたらした猿ども相手に考え付いたものだ。苗を植えこんだ袋の口元をしばり、たとえ苗を引っこ抜いても太った芋は取り出せないぞ、という猿害対策だったが、なんだか猿相手の「いやがらせ」にも似て面白い実験だった。

 こうして収穫までたどりついたのだから、猿害対策としては成功したのだろう。何度かあらわれた「離れ猿」に、収穫間際の落花生を収奪されてしまったが、すぐ近くのサツマイモは無事だった。
 ただし袋に手を出した気配はない。つまり口元を閉じた効果ではなく、袋そのものを警戒したためだろうと思われる。壊滅的な被害をもたらす「群れ」出現がなかったのが幸いだったのかもしれない。

 イモの出来はまずまずか。使用した土のう袋のうち、黒色・白色に出来栄えの差は見られなかったが、母屋の裏手より、山羊小屋横のほうが断然よかった。ひとえに日当たりの良し悪しによるものだろう。
 ちなみに普通の白い土のう袋は、紫外線劣化がはげしく、持っただけでビリビリと破けてしまった。黒い袋はやや高価だったが、耐候性があるため丈夫で、このぶんなら来年も使用できそうな感じだった。

 購入した苗は短かったので、いわゆる「縦挿し」で植え込んだ。そのためイモは2本程度しか出来なかった。大きな苗の「船底挿し」なら数が多くなるようだが、あまり太らないらしい。
 また横に植えるため口元を閉じにくいし、根が袋に触りやすく、袋を突き破って成長してしまう。その意味でも袋栽培には「縦挿し」がいいようだ。
 さほどの収穫量ではないけど、夫婦二人だけだからこれで十分。

 抜けるような青空。色づきはじめた枯れ葉。あざやかなベニアズマ。そんな秋の三色をたのしんだけど、空き家になった山羊小屋がひどく寂しそうに見えてしかたがない。