廃油石けんをつくる

 地下室に置いてある石けんの在庫が少ない。食器洗いや風呂場掃除につかっている廃油利用の手づくり石けんのことで、紹介ついでに製造当時の古い写真を載せてみたが、ついつい苦笑いがこみ上げてくる。

 その当時に視聴した韓国製ギャンブルドラマを真似しての「オールイン」ポーズだったのだが、すこし調べてみると15年前の放映だ。そのころの無頼を気取る編集者(いまや絶滅した化石人種)に混じってのギャンブル漬けの記憶がよみがえってしまうが、ちょっとした余談なので詳説はしない

 いそぎ話をもどすと、これだけの量を消費するのに10年以上かかったと思えば、なにやら感慨深くもあり、残りの量があれば半年間は持ちそうだ。ちなみに製造してすぐの廃油石けんは、アルカリ分が強すぎて手が荒れてしまう。いわば熟成期間が必要ということで、そろそろ次をつくっておこうかと思った。

 とりあえずテスト製作にとりかかり、使用する道具をならべてみた。写真右上から①苛性ソーダ。450g入りが多く販売されている。②天ぷらなどに使った廃油、ガソリンスタンドで無料入手のペール缶、攪拌するための竹棒、③保護めがね、③牛乳パック

 この苛性ソーダは劇物に指定されている危険な薬品だ。とくに水に溶かしたときはきわめて危険で、慎重な取扱が求められる。そもそも「苛性」とは皮膚をただれさす性質という意味になり、廃油とまざったドロドロ状態で付着すると拭いにくく、ほんの一滴でも眼に入ると失明の恐れがある。

 苛性ソーダは薬局で入手できるが、劇物指定のため署名と印鑑が必要。ただし、最近多いドラッグストアでは在庫しておらず、処方箋を調剤してくれる「調剤薬局」にもない。結局、むかしからある古い薬局でみつけたが、3万人弱が住む地域でたった一軒という状態。

 まず水0.8リットルをペール缶に計り入れ、つぎに苛性ソーダ450gを入れる。逆に苛性ソーダに水をそそぐと、急激に発熱して飛び散り、きわめて危険。保護めがねを着用し、ペール缶をのぞき込まないよう注意する。

 白いフレーク状態の苛性ソーダは、水と反応してソーダをふくんだ蒸気を発生させ、吸いこむと鼻粘膜を冒される。蒸気を吸いこまないように戸外で作業する。また苛性ソーダには腐食性があり、アルミニウム、錫、亜鉛などと腐食反応し、可燃性ガス(水素)を発生させる。鉄製のペール缶、一斗缶のほか、プラスチック容器なら使え、ペットボトル利用がネットで紹介されていた。

 白濁した溶液を5分ほど攪拌し、透明になったら廃油3リットルを静かに注ぎ入れて、さらに攪拌。30分ほど混ぜつづけると、廃油とソーダが次第に反応し、キャラメル色に変わってくる。この状態を「けん(鹸)化」と呼ぶらしい。

 なにより攪拌作業が大変。とにかく40分は混ぜつづけるわけで、手荒にすれば溶液が飛び散ることもある。保護めがね、ゴム手袋のほか、汚れてもいい作業服、長袖を着用しての作業となる。

 キャラメル色に「けん化」した溶液は、牛乳パックに移し入れる。水0.8リットル+苛性ソーダ450g+廃油3リットルと、約4リットルの溶液なのでパック4本が必要。これをテープなどで固定しておくと、注ぎ入れるとき倒さずに済む。

 10日から2週間ほどで固まる。パックを外して小さく切るため、前はこんな道具を使った。把手をつけた細いワイヤーで引き切るものだが、今回はポロッと崩れてうまく切れない。仕方なくノコギリに変更。滑りやすくてけっこう大変だったが、なんとか使えた。

 テスト製作のあと、さらに10個ほどの苛性ソーダを取り寄せてもらい、大量の廃油を処理した。ちなみに小さく切った石けんは、ラップに包んで保管し、食器洗いに使用。ボロッと崩れたくず石けんは、チーズ下ろし器で粉石けんにしたり、水入り容器に溶かして液体石けんとして風呂洗いに使う。

 今回の石けんは崩れやすく失敗の部類だったろう。材料の混合比、または攪拌時の温度が関係したかもしれず、次回までに要研究だが、かれこれ10年以上の在庫がある。はたして次があるかは断言できない。