献残ポテト

 江戸の町に「献残屋」という職業があった。献上品の残りを仕入れて転売する、読んで字のごとくの商売だが、江戸にあって大坂にはない、と書いた資料があったはずだが、書名はわすれた。

 献上品と言いながら、そのじつ幕府の役職や大名家への付届け品であろう。ときには小判を忍ばせた賄賂の残りだった可能性もあるわけで、昆布や鰹節などの日持ちのする乾物などが多かったらしい。

 献上も付届けも(フリーランスが長かったから、その機会も必要も少なかったけど)田舎に移住してからはまったく意識したことがない。そんな必要もないと思っていたが、すこし考えが変わった。

 近隣の農家が猿やいのししなどの獣害に困っているのは知っていたが、菜園をするようになると直接な被害として感じる。なるべく獣害の出ないような作物を作るようにしているが、そうもいかなくて今年もジャガイモ畑を荒らされ、悔し紛れの「猿来襲」をブログで報告した。

 惨状のわりにまあまあの収穫……に気を取り直したわけだが、考えてみればかれらは土地の先住者なのだ。全滅となると困るけれど、多少の献上は仕方がないのかもしれない。
 ワインを樽で貯蔵するさいの蒸発分を「天使の取り分」と言ったりするが、先住者にいささかの敬意を表するなら「野生の取り分」があってもいいような気分になっているのだ。

 そうした事情の「献残ポテト」、けっこう楽しく食した。以下はその報告。

①ご存知ポテトサラダ。メークインだったのでクリーミーな味。
②ハッシュドポテト。細切りにして片栗粉大さじ1を混ぜ、電子レンジにかけてからオリーブオイルで焼いた。
③照り焼き風ポテト。サイコロに切って揚げ焼きし、酒、みりん、しょうゆで味をつける。マヨネーズを加えると一気にジャンク風味。
④ハッセルバックポテト。切り離さないように切れ目を入れ、バター・チーズをはさんでオーブンで40分焼いた。スタイリッシュだが味はいまひとつ。
⑤定番の肉じゃが。
⑥何度もつくる鶏肉ポトフ

 一番の好みはジャーマンポテト。
 薄切りポテトは電子レンジでやわらかくし、自家製ニンニク・自家製ベーコンとお隣に頂戴した玉ねぎのみじん切りをよく炒め、投入したポテトに焦げ目がつくほど焼きあげ、仕上げにデッキ産のパセリを散らした。

 その味よりなにより、買ったものが一つもないのが気に入っているのだ。