大根を煮る

 気がつくと日射が多くなり、午前8時半ごろには朝日が当たるようになった。年初より30分は早くなって気分的には春めいてきたが、いまが寒さの底であろうか。連日、最低気温マイナス6,7℃の寒さがつづいている。

 この冷え込みを待っていたご近所の天然氷屋さんでは、14,5㎝の厚さに凍らせた氷を切り取り、氷室に運ぶ作業がはじまっている。例年より10日以上遅いようだし、2回目の取り入れが出来るかどうか危ぶんでいるらしい。

 そう言えば、例年のようなマイナス10℃を下まわる寒い日はまだない。移住したてのころには、マイナス15℃を記録したこともあるから、やはり温暖化が進行しているのだろうが、こんな年にかぎってドカ雪が来るから油断はできない。

 この寒さに大活躍している薪ストーブで大根を煮た。いいただき物の大根を無駄にしないためで、いろいろ試してみた。たとえば一度冷凍させたほうが早く味がしみやすい、とのネット情報に乗ってみたが、たしかに早く煮えるようだが、柔らかさにむらがあり、味が変わるような気がした。

 結局は、薪ストーブでコトコト煮るのが一番、という結論になった。どうせ一日中燃やしているのだから、調理時間無制限でいいというわけだ。

 大きめの寸胴鍋に、昆布を10㎝ほど入れ、大根一本を輪切りにして火にかけておく。皮はむくが、面取りなどはしない。米か糠を入れて下茹でするほうがよいらしいが、最近の青首大根ではそれほどのえぐ味は感じない。

 薄味をつけてふろふき風にしたものに、肉味噌を添えたり、和辛子で食したり。下処理した牛すじ肉で出汁をとり、豆腐と一緒に煮込むのものもわるくなかったが、やや味が濃いめ過ぎたか。

 といったふうにいろいろ試したけれど、牛すじ肉の出汁に、関西風のおでん味にしたものを和辛子で食すのが一番だった。たくさん食べるにはシンプルな味付けがいい、ということかもしれない。

ご存知か

「ご存知か」とは、敬愛する遠藤周作氏が著書『反逆』の冒頭に書いた一節だ。日本に最初に黒人が来たのはいつだったかを読者に問い、京都を訪れた宣教師の一行に黒人の召使いがまじっているのを知った織田信長が「呼べ」と彼独特の高い声で命じ、宣教師はあわてて黒人を伴い本能寺に伺候した。

 合理主義者の信長は人間の皮膚が漆黒に光っていることがどうしても信じられなかった。
「洗え」
 これもひと言。彼はこの男の上半身を裸にして小姓に洗わせた。その皮膚は墨で染めたのだと考えたのであろう。

 と遠藤氏は書きつづけている。これにしびれた。最初に読んだのは、30年近く前のことだが、これほど信長という男をあざやかに描写した文章はない、といまだにしびれつづけている。
 それゆえに織田信長を書けない、というのが本音か、それとも言い訳かはここでは書きふれないけれど、折にふれてこの言葉を思い出したり、書いたりしている。とくに田舎暮らしを始めてから「ご存知でない」ことが多かったせいもあるだろう。

 たとえばカボチャの花だ。カボチャにかぎらず草木の花は、雄しべ雌しべが受粉して結実すると、はるか大むかしに習っている。ところが菜園の真似ごとをするようになったとき、カボチャの花の根元に丸く小さな実があるのを発見、これが大きく育って食用になると知った。これが雌花で、雄花は別にあるのだ。
「ほほう、そうなのか」
 とやたら驚き、驚きついでに、締め切り間際のエッセイを、
「ご存知か」
 と仰々しく書き出してしまった。ところがあとになって「ご存知ではない」のは、どうやら私だけだったらしいと気づいたりもした。

 それに懲りずにまたも「ご存知か」なのだが、冬至の日に昼間が一番短い、とは小学生でも知っている。毎年12月末に冬至をむかえれば「やれやれ、やっと昼間が長くなるか」とホッとするもので、とくに田舎暮らしをはじめた当初はその気分が強かった。

 わが家は東西に細ながい谷間に建っているため、太陽の位置が低い冬になると、山の端にかくれてなかなか顔を出さない。当然、冬至が過ぎれば日の出が早くなる、と大いに期待する。なにしろ最低気温-10℃の土地柄だけに、午前9時近くになって昇ってくる日射しのありがたさは身にしみているのだ。

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 ところが早くならない。いや、遅くなっている気配さえある。
「おいおい、どうしたことだ」
 と調べはじめる。新聞の取り置きを引っ張り出して暦欄を探し、切り抜いてならべてみたりする。するとどうしたことか、日の出時間は冬至が過ぎても少しずつ遅くなっているではないか。そんなバカな、と思いつつ再度調べることになる。

 というのはインターネット誕生以前の当時の話であって、小説の史料調べに公立図書館に行ったついでに思い出して、あれこれ調べることになった。その結果、昼間の長さは太陽の角度によって決まり、日の出日の入りは太陽の運動によるものらしいとわかった。
 言うまでもないが太陽が動くわけではなく、地球の傾きや公転軌道が楕円のため起こる現象のようで、冬至のあと半月ほど待たねば日の出は早くならないらしい。そこのあたりは私には理解不能でうまく書けないが、いまではネット検索でいとも簡単に調べられ、たとえば国立天文台のホームページにくわしく解説されているのでご参照ねがいたい。

パノラマ写真-C

 そんなこんなで山の端に隠れたわが家の日の出は、年が明けた1月13日ごろから少しずつ早くなり、およそは三日間で1分ほど早くなる。上記写真は午後2時半過ぎで、あと1時間もすれば日が暮れる、……と書いてはみたが、やはりこんな話、「ご存知でない」のは私だけだったかもしれないな、といまでは思っているのだ。