鉄瓶と焼き芋

 たしか高知市の日曜市で購入したものだ。いや、いつも薪ストーブに乗せている鉄瓶の話なのだが、高知には幾度も訪れているし、古すぎて忘れてしまったけど、たぶん20数年前のことになるだろうか。

 高知城追手筋でひらかれる日曜市は、なんと元禄のころが起源と聞いた。もちろん日曜日なんてない時代だから、日を決めてひらく市だったのだろう。取材のついでに訪れ、たまたま立寄った骨董売りの露店でみつけた覚えがある。土佐鍛冶が鍛えた鑿(のみ)を買うつもりだったはずで、20数年前となれば母屋のログ建築に必要だったのだろう。

 ほとんど錆(サビ)の塊といったふうの、持ち手のツルや注ぎ口の形を見て、かろうじて鉄瓶と知れる品物で、鉄瓶の特徴になっている「あられ模様」なども錆に覆われてのっぺりしていた。

「錆がなきゃ、けっこういいもんなんだよ」

 などと言われたけど、錆を落としたらツルが無くなる心配もあった。それでも買ってしまったのは、数百円ほどの価格だから「ダメ元」と覚悟していたに違いない。

 さて、錆落としだが、むかしのことで正確には覚えていないけど、タガネとハンマーで大まかに落とし、焚火で熱しては水で冷やし、錆が浮いたところをスチールタワシでこすり落とす。そんな作業をくり返したあと、真っ赤に熱して古い食用油を塗り、ついで紅茶で煮たような記憶がある。あるいは誰かに教わったのかもしれないが、同じような方法がYou Tubeに紹介されていた。

 そんな苦労した鉄瓶も20年も経てば、あちこち錆が浮いてくる。そこできれいにしたいのだが、鉄瓶のお湯は飲用しない。それならば耐熱塗料か、とやたら手軽な方法に変更。錆をワイヤーブラシでこすり落とし、車のマフラーやストーブ煙突に使用する耐熱塗料をスプレーすればあっさり終了する。

 乾かしているうちに「焼き芋づくり」を思いついた。なんだか悪乗りっぽいけど、秋に収穫したサツマイモがほとんど消化されていない。とくに多い小ぶり芋なら鉄瓶に入れられるだろうし、ダッチオーブンほど密閉がよくないが、アルミホイルで包めばなんとか行けるのではないか。蓋をして1時間ほど加熱したところ、ふっくらとムラなくやわらかになって仕上げは上々だった。

 そこで悪乗りを重ね、手のひらに乗るほど小さなダッチオーブンを購入。さらにはアルミホイルなし+蓋を少し開けたほうが水分がぬけて甘みが増す、との雑誌『現代農業』の記事推薦の加熱方式で、午後のお八つを楽しんでいる。