カメラマンの修業時代に、デザイナー志望の仲間と「レコードジャケット」づくりに熱中したことがある。ただし仕事ではなく売り込み用のサンプルであって、あれやこれや工夫してつくりあげると、わずかなコネを頼りにレコード会社に持込んだりしたが、ついに一枚も採用されなかった。
ビートルズがデビューした1960年代というのだから、やたら古い話なのだが、それを思い出しながら、いま電子書籍の「表紙」をつくるのは、すこしばかり懐かしく刺激的な作業なのだ。
本というのは、とくに小説というものは、読んでみて面白かったから買うものではなく、面白そうだから買ってみるか、と思ってもらうものだ。そこで書き出しに苦労するのだが、「表紙」も同じような役目を持っているわけで、いわゆる「ジャケ買い」があるのだから、当然、「表紙買い」もあるだろうと期待しつつ作業している。
私の「表紙」づくりはすべて写真を使い、選んだショットにタイトル文字を入れるだけだが、それだけに写真の選定には気をつかう。カメラマン時代のストック写真をスキャンして使ったりもするが、そうそうぴったりなショットばかりというわけにはいかず、新たに撮影することが多くなっているし、ときには合成したりもする。
青色を強調した画面に蛍を飛ばそうと考えたときは、コピー機の節電ボタンの色合いがちょうどよく、わざわざピントをぼかして撮影した画面をフリーソフトのGINP2で合成(かなり苦労)してこんな画面にした。
映画撮影にスクリーン・プロセスという合成技法がある。俳優が必死に逃げる。その背後からライオンが「ガオー」と飛びかかる、などというシーンは、ほとんどスクリーン・プロセスが使われていた。自動車や客車のシーンで背景を動かしたりとかなり便利に使われ、スチール写真でも小物撮影などに利用したものだが、CGの時代となってすっかり忘れ去られた。
強烈な映写装置と反射効率のよいスクリーンを必要とし、その手前で演じる俳優などへの照明がむずかしい技法だったが、スクリーンの代わりに液晶モニターを使えばじつに簡単。試したことはないが、4Kモニターならさらに鮮明になるだろうと期待できる。ひどく古典的な技法だが、フリー画像を利用すれば背景は自由自在。あんがい使えるかもしれない、と思った。
合成技法はかように便利なものだが、じつをいうと私はあまり好まない。ついつい説明的かつ装飾過多になりやすいからで、「本多の狐」と続編「竜の見た夢」と2作つづけたあとの「黎明の風」では、一転して墨絵のような写真を選んだりしている。みなさんはどちらがお好みだろうか。