「あら、板は下と後ろだけなのね」
「ああ、そのつもりだけど……」
地下室の工房で組立中に、めずらしく様子を見に来た奥さんからそんな声がかかった。前々から頼まれていたベッドサイドテーブルをようよう制作し始めたところで、すこしは心配だったのかもしれない。
「そこってティッシュボックスを置いたりするんだけど、何かないと横から落ちてしまうんじゃない?」
「え? うーん……」
すぐには答えられない。すでに脚部を組み立ててしまっているので、追加の細工となるとすこぶる厄介なのだ。
天板はアルダー材、底板と後板は薄いケヤキ板、脚部はタモ材と、材料だけはまあまあ奢ってはいるが、組立はポケットジョイントという、このところ得意にしているお手軽制作ですませてしまうつもりだった。いまから両サイドに板を張るとなると、ちょっとばかり面倒なことになった。
いろいろ考えた末、真鍮の丸棒を差し込むことにした。最初は同じタモ材でつくった1センチ程度の角棒をはめ込むつもりだったが、ホゾを掘るノミを使う余地がない。トンカチで叩けないのだ。丸棒にする手も考えたが、いっそ異種材の真鍮にしたほうがデザイン的に面白いかもしれない。
技術的には「やり返し」を使う。木工ではほとんど使われないが、和風建築にそうした工法がある。柱の間に水平材(鴨居、窓まぐさ、窓台など)を取り付けるとき、水平材の一方を深く掘った穴に入れたあと、反対側にすこしもどして取り付ければいい。
まず6ミリの真鍮棒を必要なサイズに切断する。丸い穴なのでアングルドリルで細工でき、片方は2倍の深さにあける。
丸棒を深い方に差し込み、反対側に「やり返す」とき、穴にエポキシ接着剤を塗っておく。乾燥すればしっかり固定されているはずだ。
あとはホールジョイントで接合し、天板も金具止めと簡単にすませるが、組み立てながらオイルを塗るなどして仕上げには少し手間をかけた。
まあまあの完成形か。真鍮の丸棒も違和感なく納まっているようだ。
こんな感じにベッドサイドに置くが、それにしても背後のベッド。制作したのは母屋建築の前というから、25年以上は経っている。出来映えからすれば抹殺もので、いずれ作り直しか、とも考えていたが、寝るのに支障もないので、あるいはこのままになるかもしれない。