グリーンウッドワーク

 秋田のログビルダーが日光に来ていると聞きつけ、SNSで配信された写真を頼りに、ここらしい、と目星をつけた山小屋カフェに行ってみたら、なにやらのワークショップに参加していた。
 10人近くが黙々と作業しているのは、すこし近寄りがたい雰囲気だったが、見学自由とあるので、生来の図々しさを発揮していろいろ見学させてもらった。

 開催されていたのはNPO法人グリーンウッドワーク協会の「ゴッホの椅子」づくり講座だった。ゴッホが描いた「アルルの寝室」に置かれた椅子をつくるようで、しかもグリーンウッドワークというところがいかにも面白い。

 グリーンウッド(Green Wood)とは、生木を意味している。森から伐りだしたばかりで乾燥させていない木を、伝統的な工具で割ったり削ったりしながら、家具や小物をつくることをグリーンウッドワークと言い、そうした伝統作業があるのは以前から知っていたが、実際に目にするのは初めてだった。

 それにしても作業が興味ぶかい。木を削っているドローナイフは、ログ建築で皮むきに使ったりする道具だが、削る木片を固定している台がひどくめずらしい。
「削り馬 shaving horse」と言うもので、またがって足を踏ん張ると、テコの原理で木片がしっかり固定される。つまりドローナイフを引っ張る力と、本能的に足を踏ん張る力を統合利用する、きわめて合理的な道具と言っていいだろう。

 そう言えば「アルプスの少女ハイジ」のおじいさんが、何やら削るときに使っていた道具だったな、と思い出していたころ、ウチの奥さんと講師O氏の会話が俄然盛り上がっていた。どうやらO氏がヤギ飼いと判明したからだが、それはまったく別の話。

 ともあれヒノキの生木を割った材料を、2日間の講習で削り上げたあと、翌月の2日間を使って組み立て、座編みとすすむらしい。当然、つづきが気になるわけで、木工家のH氏を誘って見学することにした。

 椅子の座張りには、専用のペーパーコード(紙紐)を使用した方法を知っていたが、イグサ縄を使っているのが目をひいた。自然素材を使うところが「自然主義」のグリーンウッドワークらしいし、ペーパーコードより太くて作業が早いかもしれませんね、とは木工家H氏の感想。

 編み方は「封筒編み Envelope Weaving」だ。四隅から編みすすめ、完成形が洋封筒(Envelope)に似ているところからの名称だろうか。座幅の違いを処理しながら編みはじめるところにポイントがあるようだったが、見ているだけではよく理解できない。

 あとは順繰りに編みすすめてゆくのだが、こうしたくり返し作業を苦手にしているせいもあるのか、じっと見ているうちにこんがらがってしまう。やはり実際に作業することで身につくものなのだろう。

 じつに素朴で温かみのある椅子になった。触るとしっとり濡れた感じの生木だから、乾燥したあとがちょっと心配だが、いかにも満足した参加者の表情を見ると、そんな危惧なんかどうでもいいと感じさせる。