小さなダッチオーブン

 今年ほど忙しない冬はなかった。記録的な暖かさのあと、いきなり寒波が押し寄せてマイナス10℃に舞い戻ったけれど、収穫ゼロを心配した天然氷池にとっては恵みの寒波。1週間ほどつづいてくれてヤットコサットコ収穫まで漕ぎつけた。いつもの年なら15センチ厚のところを10センチがやっとだったらしいが、ほっと一息ついたことだろう。

 その寒波が去ったとたんに気温があがった。報道によれば四月並みの暖かさらしいが、そんな陽気に誘われて薪原木の玉切りをはじめた。

 新しい長編小説のすすみ具合はさっぱりなのに、肩こりばかりがどんどん進行。こうなったら体を動かしての血行促進が一番の治療法、とまずは細めの原木を切りはじめたけれど、2時間ほどで中止した。

 チェンソーの振動は、肩こりを心地よく癒やし、2サイクルのエンジン音は、執筆で偏った脳細胞をもみほぐしてくれたけれど、重い丸太を動かしたときズキンと腰に来た。
 あげくの腰痛は、不快な肩こりを忘れさせるほどだが、まったくもって想定外。小説なんて全然書けずに、薪ストーブの前に座りっきりだ。

 そんなこんなの薪ストーブ・シーズンも残り少なくなったが、今年の冬を楽しませてくれたのが、手のひらに乗るほど小さなダッチオーブン。
 どうして買ったか忘れたけれど、2年ほど前からストーブ脇に転がっていたものだが、ふと思いついてベイクドポテトを作ってみた。

 材料をいろいろ試したところ、昨年に秋ジャガイモとして収穫したアンデスレッドがよかった。小粒なイモだから皮むきがちょっと面倒と、やや調理しにくいイモだが、味がいいのが特徴だ。

 特別なレシピがあるわけじゃない。泥付きのまま貯蔵したもの水洗いして、小さなダッチオーブンに収めると、小粒なところがちょうどよく、真っ赤な皮の鮮やかさも悪くない。
 あとは薪ストーブに乗せるだけ。何もしない。小1時間ただ待っているだけでいい。薪の燃え具合、ストーブの熱さ次第だろうけれど、イモに火が入ったかどうかは竹串を刺して確かめればいい。
 ときには焦げ気味になるが、それも香ばしく、もともとの味の良さが際立つようだし、バターを添えると濃厚さがたまらない。

 ついでサツマイモも試したけれど、もちろんわるくない。同じく泥付き保存を水洗いしてダッチオーブンに投入。なにも足さずに1時間、というのも同様だが、サツマイモには糖分が多く、しみ出して焦げ付くこともあるのでアルミホイルを敷いてある。

 ただ蓋を締めたままだと水分が出て、ややねっとりとした味になる。焼き上がりの15分前ほどから蓋をずらせておけば、水分が逃げていくぶんかホクホクに仕上がるようだ。

 ともあれ重くて大きいダッチオーブンに比べ、ひょいと気楽に使えるのがいい。当然、小粒なイモのほうが扱いやすいから、今年のイモ栽培はこのあたりに留意してみようかと考えている。


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