「どう? もう天井張れた?」
「いや、それがさ……」
「高いから、足場組むのが大変だったろう」
「なに、足場はもう組み上がっているし、大部分は張れたんだけど、残りはちょっと待ちなんだ」
「待ち? なにを待ってるの」
「巣立ち。鳥のね」
というような会話を、ずっと以前にログハウスのセルフビルダーと交わしたことがある。よくある話なのだ。
およそは山の中、森の中。ほとんど人は通らないし、町の喧噪もなければ大気汚染もない。ときおり聞こえるのは、吹き抜ける風にゆれる木の葉の音だけという場所に、わざわざ住もうという人間も酔狂なものだが、おかげで蛇や猛禽などの天敵も近づかない。子育てには絶好の環境だ。
と野鳥たちは思うのだろう。建築中のログハウスに巣作りされて、仕方なく作業中止に追いこまれることがしばしばある。
天井近くの梁や母屋に作ることが多いのだが、手製したクレーン塔のなかで小鳥がバタバタしている、と赤城山のビルダーから聞いたことがある。補強のために張った板に穴をあけて落ち込んでしまったのだ。
「キツツキさ。中が空洞だから、虫がいると間違えたんだろうね。仕方がないから板を外して逃がしてやったさ」
デッキ屋根架けのため、丸太ポストの刻みをはじめた。まだデザインの全容は決まっていないが、既存デッキに差し込む部分なら先行製作できる。そうして何本か刻み終えた丸太の近くで、チチッと鳴き声が聞こえ、黄色いものが眼のすみを横切った。それで気がついた。
「あ、キセキレイ、まずいぞ」
毎年のことだが、デッキ上の梁にキセキレイが巣作りをする。あちこち飛びまわって枯れ草やワラやらを集め、放牧場の柵に引っかかった山羊の毛をくわえたりして巣をつくる。
卵を産み、抱卵し、孵化して巣立つまでひと月ほどもかかるだろうか。卵や雛を狙う蛇さえ気をつけていれば、別段、悪さをするわけではないので、そのまま見守ることになる。しかし去年の巣は、屋根を架ける梁に作られていたわけで、ことによれば作業延期ともなりかねない。
さっそく点検したが、さいわい卵はなかった。巣は撤去して一件落着。
そんなこんなで慌ただしく、配信予定のデジタル作業がまるですすまない。つい先日、ボイジャー社のRomancer「いろいろ情報」に紹介されたりしたので頑張りたいが、校正読みをしてもちっとも集中できないでいる。