年忘れ料理

 毎年のことだが、歳末は料理でやり過ごす。まずは合鴨を低温で調理し、その合間をえらんで黒豆や昆布巻きをつくり、いわゆる「お節」がわりとする。
 合鴨の低温調理は、恒例になった年忘れの一品持ち寄りパーティー用だが、お節や年越しそばにも利用するので、味付けにすこし工夫した。

①使うのは合鴨の抱き身。鴨ロースとして売られているが、いわゆる胸肉で翼を動かす筋肉。当然、野生の鴨が最上等でかなり高価。むかし狩猟家から譲ってもらったことがあるが、いまでは輸入品の冷凍合鴨で我慢している。なにしろ500円ほどとお安いのが一番。

 まずは冷蔵庫に移してゆっくり解凍する。出来れば丸一日、すくなくとも一晩かけて解かす。水に漬けたりすると細胞が壊れ、てきめん食味に影響する。
 しみ出たドリップをきれいに拭き取り、2時間ほど常温に放置する。肉の内部まで同じ温度にするのが低温調理のポイントの一つ。

②お湯に漬け込むため、ビニール袋に別々に入れる。以前、ひとまとめに試してみたが、重なった部分の熱の通りがムラになってしまった。ビニールは破れやすいので2重にしたほうが安全。
③お湯は60℃。肉を入れたときに冷めるので、やや高めに設定する。もし低くなりすぎたら熱湯を追加してもよいが、とにかく60℃を超えないこと。

 漬け込み時間は2時間。わが家では保温調理器使っているので、一時間に一回、熱湯を注ぎ入れて60℃を保っている。最近では電気式に温度調節が可能な製品も売られているが、大きな寸胴鍋を利用して、とろ火で温めながら60℃を保つ方法でも十分可能だ。

④⑤皮に包丁目を入れ、熱したフライパンで焼く。皮から脂がしみ出てくるので油は入れず、筒切りした長ネギを一緒に焼く。
 ついで鴨肉は取り出し、酒1,みりん1,しょう油1の漬け汁を入れる。しみ出た鴨の脂や焦げ目をこそぎとり、ネギの風味が移し採るためいったん沸騰させる。

⑥あら熱をとった漬け汁に鴨肉を漬け込み、一晩置く。ビニール袋なら漬け汁が少なくてすみ、抱き身三枚使った今回は、酒、みりん、しょう油をそれぞれ半カップ使用した。

 こうした調理法では、まず焼き目をつけてから漬け込む場合が多い。しかし低温調理の場合、腐敗菌が繁殖しやすい30~40℃の通過時間が長くなるため、あとで表面を焼くほうが殺菌効果が高いと言われている。
 また漬け汁に酢を合わせるとやわらかに仕上がる。ここで使用しない理由は後述する。

 60℃・2時間で調理した鴨肉は、肉色があざやかなピンクに、しっとりやわらかく仕上がる。一晩漬け込めば味もしっかり乗っているが、漬け込み時間が短いときには、漬け汁を煮詰めてタレとしてもいい。

 隣村のログビレッジで開かれる年忘れパーティには、こんな感じに薄切りして持ち寄った。それを終えて帰宅後、漬け汁を出汁でうすめ、裁ち落としの鴨肉を入れた「鴨汁そば」で年越しをするのが恒例になっている。

 冷たいそばを温めた鴨汁でいただくのは、日光に移住してから知った。東京で食する「鴨南蛮そば」に似ているが、そばが冷たいほうが、そばの風味が際立つように感じる。
 このため漬け汁に酢を使わないのだが、鴨肉にはややパンチ不足。オレンジかレモン汁を別途加えるなどの研究が必要かもしれない。

 そのほかに、ニシンの昆布巻きをつくり、黒豆を黒砂糖で味付けし、小さなダッチオーブンを薪ストーブで煮たりしたが、新年の食卓はこんな感じでお節料理とはとても言えない。歳のせいだろうけど、鴨肉のお雑煮だけで十分満腹してしまうのだ。