最近ほとんど聞かないけれど、大坂の食い倒れ、京都の着倒れ、江戸の履き倒れ…などと言われた。前者二つはわかりやすいが、履き倒れって何?
正直に解釈したら、足元にオシャレをした、という意味になろうか。きりっとした女衆が素足の下駄をカタカタ言わせてやって来た玄関口。脱いだ塗り下駄には黒蒔絵。
そんな光景、まったくの化石ものだが、要するに見えないところで贅沢をしたのだろう。着物の裏地に凝ったりするのと同じ精神構造だったのか。
これを奥ゆかしさの発露、と言えるほど江戸庶民はバカ正直じゃない。何度も発令され、お膝元だけに取り締まりも厳しかった「贅沢禁止令」だが、こんな工夫で出し抜いてやろうか、との思いが強かったのかもしれない。
どちらかと言えば「履き道楽」だろうか。しかし、オシャレな靴で外出なんてまったくないので、もっぱらの対象は作業靴ということになる。
丸太を相手にするログ作業や薪割り仕事では、足先を保護する安全靴だろうし、草刈りや畑仕事にはゴム長靴がいいようだが、どちらも足がムレて気持がわるい。
そこで本革もののブーツタイプを愛用していたが、その足先がバックリ口を開いてしまった。はるかむかしの映画で、壊れた靴をパタパタ言わせて歩くチャップリンを思い出してしまったけど、このまま捨てるのはしのびない。
壊れてみて分かったけれど、靴底との縫い目はまったくの飾りのようで、ぐるりを接着剤で固定している。なんだかガッカリだが、これなら修理可能だ。
はがれかかった靴底を完全に外し、よく乾かして泥をおとす。ついでゴム用ボンドを両面に塗りつけるが、すこし乾かしてから接着する。クランプできっちり固定するのだが、そのさい木製のシューズキーパーを入れるところが、なんとなく本格的。
一日おけばしっかり接着されている。これで修理は完成したが、ついでだからとミンクオイルを塗りつけて防水処理をほどこした。こうして仕上げれば、あと何年か履けそうな気分になってくる。
木製シューズキーパーといい、ミンクオイルといい、手持ちがあるあたりが「履き道楽」の所以だろうけど、それより先に「生来のケチ」がモロにあらわれた靴修理だった。