引き出しを主にした収納家具は「箪笥」とよばれ、ほとんどの場合、収納するものにあわせてつくられる。それぞれ衣装箪笥・茶箪笥・薬箪笥・刀箪笥といったふうに名づけられ、変わったところでは、運び出しやすいように車輪を付けた車箪笥、二階への上り下りに使える階段箪笥、船に積みこんで使う船箪笥などがある。
今回つくっているのは、江戸のころだったら帳箪笥とよばれた。商家の主人あるいは番頭が帳付けをする帳場に置かれたもので、金箱や大事な書付を入れる「からくり」を備えた帳場箪笥とはちがい、もっぱら大福帳などを収納する小箪笥をいった。
ちなみに商家の帳場は木の縦格子で囲まれているものだが、仕切りというには低いものだし、むろん飾りというわけではない。主人あるいは番頭のみが入れる結界を意味し、許可なく立ち入ることを禁じているのだ。
商家ではないので大福帳はもとより家計簿なども付けないけれど、多少なりとも保存したい書類や資料があり、そのほとんどがA4サイズなので、A4箪笥とでも名付けようかと思っている。
高さを変えた引き出し5種類×2列とちょっと欲張った。じつは10年ほど前、ほぼ同じデザインで製作しているが、A4サイズきっちりにつくったためクリアファイル入り書類が収納できず、やや使いにくかった。
側板はナラ材で組み上げ、鏡板はクリ板をはめ込み、引き出しを支える仕切り板を差し込むための溝を彫る。6ミリ厚の合板用と表面側は10ミリ溝にする。見栄えを考えてナラ材をはめ込むためだ。
天板はナラ材をビスケットで張り合わせ、側板は2か所、中板1か所を同じくビスケットで接合する。
底はナラの細角材で組み上げ、合板をはめ込む溝を彫り、見えない部分で側板とねじ止めした。
仕切り板をはめ込み、表面側からナラの細材を組み入れ、すべてボンド止めとした。
表板は一つひとつ、正確に削りだしてきっちりに納めたい。今回は表板をすこし沈ませて、仕切り桟を強調することにした。そのぶん側板や底板を短く計算する。
なにしろ引き出し10枚だから材料が多い。ちなみに表板はナラ材、側板・奥板はヒノキ材、底板はシナ合板を使った。
表板に側板を納める段を切りおとし、側板とともにシナ合板用の溝を彫る。まず底板を差し込んでから側板を組み込むが、側板はわずかに沈むよう薄く仕上げておく。引き出しの出し入れがスムーズになるからだが、むろんガタ付くようではやり過ぎだ。
ボンドを併用し、頭が小さな化粧板用の細くぎを打ち込んだ。
撮影用に表板にツマミを付けてみたが、色付けやオイルフィニッシュの作業を終了させてから取り付けるほうがよいだろう。
今回は柿渋による色付けを試してみるが、次回掲載とする。