お雑煮が三日もつづくと、すこしばかり胃がもたれてしまう。このあたりも加齢によるものかと思いあたり、だから七草粥なのだな、と納得してしまった。そこでふと春の七草のひとつ「すずしろ(清白)」、つまり大根を思い出したので、今回の話題にしてみる。
お隣に届け物に行った奥さんが泣き泣き帰ってきたことがある。
「これ、持っていきなって言われちゃった」
と大根2本を差し出した。そんなお返しをありがたく頂戴したのはよかったけれど、冬の大根の冷たさに持つ手は凍えて、ついには涙がちょちょぎれそうになってしまった。けれども両手は大根を持っているから拭くこともできず、帰り道の200メートルを涙ながらに歩いてきたらしい。
「ちょっと、なによ、この大根? 絶対持てない」
と奥さんが、ついつい眉をひそめたのはそうした記憶のせいだったのかもしれない。8キロほど離れた農産物直売所にならんでいた大根は、それほど巨大だったのだ。
「これ、100円だってさ」
「安いけど、”す”が入っているんじゃない?」
と気が進まない奥さんをお構いなしに、面白がって買ってしまった。となれば当然、調理役をも買って出なくちゃならない。
大根を調理するさいには「お米のとぎ汁」で下茹でする。苦みやアクが抜け、やわらかさが増して味も染みこみやすくなる。米にふくまれた”でんぷん”の作用らしいので、生米ひと握りを入れ、小一時間ほど茹でることにしている。
そう言えば、電子レンジで温めたり冷凍すると、大根の細胞壁が壊れて味が染みこみやすいと聞いてテストしたことがあるが、さほどの効果は得られず、何やら苦みも残った気配もあるのでそれっきりにした。
それにしても見事な大きさだ。輪切りにしても”す”は立っておらず、筋のある皮部分を思い切ってむけるのがうれしいが、あまりに巨大過ぎて三分の一ほどで鍋一杯になってしまった。
まず焼き目をつけた鶏手羽との煮込みにし、もう一つは、たっぷりの鰹だしに昆布を加えて煮込み、甘めの味噌にきざみ柚をそえて食した。
どーんと食卓に置いてみれば、そりゃ、まあ、存在感たっぷり……。だが、味のほうもやたら巨大。つまり大味で、すこしも美味くなかった。
「見栄えはいいけど、味も素っ気もありませんね」
と言われた記憶があるのだけど、はて、いつごろで何のことだったろうか……。