猫の瞳が明るいところで縦に細長くなることはよく知られている。樹上生活を長くつづけたネコ科の特徴とばかり思っていたが、そうとも言えないらしい。ネコ科の動物すべてが縦長の瞳というわけではなく、同じように樹上生活を送るヒョウも縦長ではない。反対にイヌ科でありながら狐は縦長の瞳を持っている。
進化とは関係ないのか、と思うものの、イヌ科やネコ科の祖先は、ともにネコ目(食肉目)のミアキスという樹上生活動物だったと考えられているから、そのころの特徴が猫や狐に残ったという可能性もあるだろう。
山羊の瞳は横長だ。羊、馬、牛、鹿などの草食動物は、ほとんど横長の瞳を持っているようで、草原などで生活し、肉食動物を早く見つけるために広い視野が必要だったからとされている。
驚いたことに鯨も横長らしい。祖先は陸上生活をしていて、生物学的にはウシ目(偶蹄類)に分類される。すると鯨と山羊は親類になるわけだ。
そう言えば私には、横長の瞳を水平線になぞらえて「山羊の眼のなかに海がある」と書き出した作品(『黒船の密約』)があるが、この話になると長くなる。いずれ電子書籍化するときの話題として本題にもどりたい。
じつはこのところ、縦か横かで少しばかり悩んだ。いや、瞳にはまったく関係はなく、横書きか、やはり縦書きかという問題だ。つまり小説の執筆は、当然のように縦書きだったが、このブログサイトを立ち上げるさい、縦書きにするか、横書きかでかなり考えたのだ。
ブログサイトにかぎらず、多くのネット表示は横書きだろう。これが少しばかり読みにくい。1行の字数があまりに多いと、他の行に視線がずれてしまうのだ。小説などの縦書きでは、1行40字以上で印刷されるが、隣の行に視線が移るようなことはほとんどない。視線が上下移動しても揺るがないわけだ。
こうした傾向は私だけではないようだ。たとえばネットなどの横書き文章では、1行空けが多用される。ときには半行分の空白をはさみ、1センテンスごとに文章を区切って表示するわけで、これによってずいぶんと読みやすくなる。新聞などの縦書き文章などでは見られない形態で、おそらくは左右移動のさいの視線のずれを防ぐ、自然発生的な工夫だろうと思われる。
そして欧文の文章には1行空けがあまり使われない。かれらは視線の左右移動に強いのだろう。横書き人種と縦書き人種にはそんな違いがある。
そもそも文字を縦書きにするか、横書きにするかは、だれがどう決めたのだろうか。当然、視線の左右移動に強ければ横に書くだろうし、上下移動に慣れていれば縦に書いたりするかもしれない。もしそうであるなら生活形態が文字の書き方に影響したことになり、猫や山羊の瞳の形の違いが、樹上生活や草原暮しの名残だったと同じように考えられるわけだ。
ひろびろとした草原で獲物を追いつづける狩猟民族は、日ごろから視線の横移動に鍛えられた結果、横に文字を書くようになった。一方、作物の種をまき、発芽した苗が上へ上へと伸びるのを、じっと見つめつづけた農耕民族は、文字の縦書きを採用するようになった。
こんな仮説が成り立つのではないか。実に面白く、これが真説ではないか、と私は思っているのだが……。