改まって「お節料理」を用意するのは、とっくのむかしにやめていた。だいたい-10℃にもなる寒い朝に、わざわざ冷えた重箱料理などぞっとしないし、たとえ「めでたさを重ねる」意味があったとしても、歳を重ねてめでたいことなど一つもありゃしないと、へらず口をたたきながらも、
「しかし、何もないのもさびしいな」
とついつい思ってしまうのが正月料理だ。
それじゃ「牛肉のたたき」でもするかと考え、ひさしぶりに「低温調理」を思い浮かべた。牛肉にかぎらず多くのたんぱく質は、65~75℃程度で変性してうま味が増したりするが、同時に水分を外に逃がして、硬くパサパサにしてしまう。こうした性質は、ハムなど燻製づくりのボイル温度を70℃に保つことでよく承知していたし、20年も前にプレゼントされた「保温調理器」を利用した「砂肝のコンフィ」を紹介したこともある。
ネット情報の「低温調理」を当たってみると、以前に比べて記事がやたらと多いのに気がついた。どうやらANOVA、BONIQといったアチラ製の「低温調理器」が輸入販売されるようになり、ちょっとしたブームになっているらしい。温度センサーで計り、ヒーターと攪拌機で湯温を一定に保つもので、スマートフォンと連携する機能もあるようだが、わが家にスマホなど一台もないし、第一、大枚2万円もはたいて買う気は毛頭ない。
ちょっと興味を惹くレシピがあった。調理温度を60℃ほどと低く保ち、その分時間を3~5時間と長くしているのだが、これほど長時間になると、頂き物の「保温調理器」ではすこしばかりむずかしい。しかし、途中でお湯を加えたりすれば可能かもしれない、とこんなテストをすることにした。
※チャーシューの低温調理
豚モモのブロック 400g
★ショウユ、みりん、酒 各大さじ2
★ニンニク、青ネギ 適宜
①一煮立ちさせた★をビニール袋に入れ、肉刺ししたブロック肉を一晩冷蔵庫で漬け込む
②常温にもどした漬け込み肉は、湯温65℃の「保温調理器」に、漬け込み液が入ったビニール袋ごと沈める。もちろん袋にお湯が入らぬよう注意する。
③一時間ごとに熱湯を加え、60~65℃に保ち、合計3時間沈めておく。
④調理した肉の表面に焼き目をつける。熱くしたフライパンで手早く焼き(ゴム入りネットは外した)、肉を取り出して残った漬け込み液を煮詰め、肉をもどしてからめる。
⑤しばらく放置し、冷ましてから切るほうが肉汁がでない。
ご覧のように肉色があざやかで、しかもやわらかい。生肉状態での漬け込みでも十分味が染みこむようで、安価なモモ肉ながらなかなかの味に仕上がった。いままでは表面を焼いてから「低温調理」していたが、あとで焼くほうが香ばしさが残る感じなのがとてもよかった。
皮目をパリッと焼いた合鴨のたたき……といま考えついたが、それはいずれ紹介する。