与一郎シリーズ
峠越え・与一郎シリーズ壱
新藩主の初入部など、筆頭家老の嫡男・榎戸与一郞にとっては他人事だ。剣術に打ち込んで総試合優勝剣士となってみたが、いずれは家老を継ぐ身なのが気に入らない。最下級のお厩方に勤め、夜な夜な狭斜の町で憂さをはらすが、親父殿に命ぜられては仕方がない。藩主護衛や隠密斬りを務めるが、やがては藩の存亡をかけた暗闘に巻きこまれ、これをさわやかに切り抜けることになるのだった。好評与一郎シリーズ第一作品。
新任家老・与一郎シリーズ弐
榎戸与一郞が家老末席に連なったものの、藩をゆるがした「主君押し込め」の余韻はまだまだおさまらない。参勤費用の捻出に頭を痛めるさなか、隠居家の木材伐採と江戸屋敷焼失と問題続出。そこに他領から入り込んだ伐採職人による事件が起こり、その背後に公儀隠密と前藩主実弟の刑部小輔の共謀が判明。誘拐された奥山小次郎救出のため川筋陣屋を急襲するが、ついには江戸の刑部屋敷に決死の覚悟で乗り込んでゆく。
家老脱藩・与一郎シリーズ参
酒毒に侵された与一郞は、藩主の側室候補加寿江への面会時に、大奥の実力者随陽院の不興を買い、敵討ちとしても狙われてしまう。酒毒を完治させたころ看病にあたった加寿江が拉致され、護衛していた公儀御庭番とともに捜索するが、それは藩主の意向を汲んだ伊勢党の暗躍によるものだった。ついには榎戸家に対して上意討ちが発せられ、病床の弥次郎衛門が明らかにする「神君お墨付き」がすべてを解決するのだった。
転び坂・与一郎シリーズ四
榎戸家祖から伝わる「神君お墨付き」の威光をもって旗本寄合席に列したが、小石川に拝領した屋敷地から謎の鏡が掘り出される。これを知って奥羽のキリシタン宗徒が動き出し、さらには「神君お墨付き」にかかわる仙台藩伊達家が入り乱れて事件が続発。謎の鏡を手にした宗徒は、安住の地「南の島」に脱出を決行し、これを援助する与一郞は、宗徒抹殺に全力をあげる伊達家・黒脛巾組との闘いを余儀なくされる。
流れ者・与一郎シリーズ五
旗本榎戸与一郎は、江戸の春を満喫しつつ、九州にむかった小次郞の連絡を待ちわびていた。キリシタン宗徒とのかかわりが幕府に察知されそうな状況に加え、宗徒を通じて海外貿易を目論む薩摩藩が乗り出して事態は混迷。大隠居・島津栄翁との駆け引きを続けながら、宗徒と小次郞に応援の手を差しのべるにはどうするのか。宗徒盟主の清国への渡航をきっかけに薩摩藩監視団との壮絶な闘いが繰りひろげられるのだった。
ご返上・与一郎シリーズ六
家臣の「お解き放ち」で天保の大飢饉を乗り切ったが、与一郞の心配は尽きない。宗徒の海外渡航幇助で手配された小次郎は、佐賀藩に自訴して幽閉の身を送っているが、さまざまに宥免を働きかけるも「林家の筋」の暗躍に不首尾におわる。じれた奥山左十郎は、佐賀城改修にまぎれて小次郎救出をもくろむが、守備隊に阻まれ万事休す。投降をねがう小次郎との父子対決が余儀なくされるが、密かにすすめる与一郞の宥免策が成就する。
長編小説
本多の狐 第2回時代小説大賞受賞
徳川家康の秘宝とはなにか、どこに隠されているのか。その争奪をめぐって最強の忍者集団「本多の狐」が登場、李朝活字奪還をめざす切支丹信徒を助けて、伊賀忍者軍団や柳生新陰流とはげしく対決。坂崎出羽守の遺児浮田平四郎と小西弥九郎の孫娘おしろ、さらには加賀前田家老の本多政重、天海僧正や柳生但馬守らが入り乱れて日光東照宮改葬の謎に迫り、やがては天草の乱になだれこむスペクタクル雄編。
竜の見た夢 続本多の狐
天草の乱は、圧倒的な幕府軍によってあえなく鎮圧。信徒たちの願いを受けて脱出する「天の四郎」おしろは何者かに拉致される。最強の忍者集団「本多の狐」に浮田平四郎が加わっての必死の追跡は、松平忠輝を警護する「猿の一族」にたどりつくが、おしろの行方は杳として知れない。舞台は仙台藩に移り、東洋最大の信徒処刑へとつづいた物語は、独眼竜政宗の夢と陰謀をのせた大船となって〝パッパのもとへ〟出帆する。
黎明の風
京への長征を開始した水戸天狗党一千余名は、通行を阻む諸藩を威嚇しつつ信濃路に侵入。飯田藩一万七千石の城下は、決戦か籠城か、評定が紛糾する中、国家老安富主計は、何者か知れない「風越山隠士」の手紙を唯一の頼りとし、長年のライバル長左衛門のするどい追及をしのいで数々の難問に対処する。物語は長左衛門の逃亡、帰投、そして果たし合いとつづき、その混迷のなかで「風越山隠士」などの謎が解明されてゆく。
芋奉行青木昆陽
サツマイモ栽培に成功した青木昆陽こと文蔵は、大岡越前守の命令で諸国古書探索に取りかかった。それは将軍吉宗お声がかりの仕事でもあり、まずは甲州の調査からはじめることになったが、お供にお庭番が付き添うという、何やら奇妙な展開をみせはじめた。さらにはひょんなことから若い剣客が加わり、行く先々で難問を解決しながらの甲州道中は、次第にキナ臭さを加えてくるのだった。一話完結の短編連作集。
乱の裔
天下を手にした徳川家が大阪攻めを画策。豊臣方も戦力補強に乗り出し、呼応した牢人たちがぞくぞく大阪入り。阿波平島にすむ足利将軍の末裔・足利七郎太にも豊臣方の密かな依頼が届くが、徳川方の蜂須賀家に知れては無事ではすまない。主戦論うずまく大坂城内、武功目当ての牢人たち、天守粉砕の巨砲カルヴァリンを用意した徳川方。その一方で匂いの君をもとめ七郎太は、しだいに戦いの渦に巻き込まれてゆくのだった。
百万石秘訓伝説
加賀百万石の執政・本多政均は、本多家に属する〝狐〟たちが、代々伝わる「秘訓」実現のために働く集団と聞かされ、水戸家や井伊家の「遺命」と目的を同じくした「秘訓」の存在を信じるようになる。やがて水戸家出身の一橋慶喜が登場、時代はますます混迷を深め、水戸天狗党の西上、薩長の暗闘と物語はすすみ、加賀藩の命運は「秘訓」実現をめざす本多政均の手に握られてゆく。原稿用紙1500枚を超える幕末長編小説。
二河白道・上巻
三河国主の居城からひとつの影が走りだし、歴史の闇に紛れるはずの事実があらわになった。誕生した松平家の嫡子竹千代には、抹殺されるはずの双子の弟松丸が存在したが、松平家存続のため「尾張売り」が企てられ、その結果として数奇な運命をたどる松平兄弟を、ともに成長する本多弥八郎の眼をとおして語る。混乱する歴史史料との真っ向勝負から導き出された〝双子家康説〟の原点になった400字詰め2400枚超の戦国大長編小説上巻。
二河白道・下巻
双子の竹千代・松丸兄弟がたどる数奇な運命は、そのまま松平家の混迷となってあらわれた。松平兄弟を見守ってきた本多弥八郎は、桶狭間の戦につづく三河一揆の勃発から主家に叛いて三河を出奔。しかし織田家との同盟、徳川への改姓とつづく松平家への思いは断ちがたく、19年後の本能寺の変のあとようやく帰参。一度は叛いたはずの主人家康から親友と呼ばれた本多正信の若き日を語り尽くし、〝双子家康説〟の原点になる戦国大長編小説の下巻。
山羊と提督
ペリー提督が4隻のアメリカ艦隊を率いて浦賀に来航し、幕末日本を大混乱に陥れる。通訳官ウィリアムスは、モリソン号の経験から日本人漁民の帰国を願う一方、黒船に乗り組んだ山羊飼いの少年とペリー提督の次男オリバーに注目する。日米の国益をかけた交渉がつづき、呼応するように起こった水兵怪死事件の裏に、画策された秘密の存在を知ったオリバーとウィリアムズは〝柵の中の従順な羊より、主イエスが選り分けた気ままな山羊〟になることを決断。黒船来航という幕末最大の出来事とその裏面史を、アメリカ側から描いた異色作。
凄い男
沖とり魚を刺して血を抜くように、あっさり人を殺める「野締めの市蔵」という凄い男がいる。とっくのむかしに裏稼業は引退した身だが、訳あって今夜もあやつを殺さにゃならない。島流しになったときやむなく捨てた幼子が、拾われた大店のひとり娘として立派に育っている。わがまま一杯、多少のはねっかえりになっちゃいるが、おれにとっちゃ大事な娘だ。悪さをするダニどもを許せるはずもねえ。いますぐ地獄に送ってやるから覚悟しろ。ピカレスク・ロマンあふれる連作集。
無頼の辻
博奕から抜け出せない男二人の苦悩は、ひとりの女をめぐってはじまった。ふと肌を合わせた女が忘れられず,金策目当てに博奕にのめりこむ。色欲地獄に陥った妻を忘れるために博奕に明け暮れ、ついには愛しいはずの妻を斬る。そうした紙問屋の手代と直心影流の遣い手が、奇妙な友情につつまれながらの二人旅。博奕から逃れるためと江戸を発った行き先が、なぜか博奕の本場の上州路……。激動の幕末を知らぬげに惑い歩けば、思いもよらぬ成り行きが待ち受ける。旅情と博奕の連作短編集。
エッセイ その他
双子家康
没後400年をむかえた徳川家康は、とてつもなく複雑な人物だ。唐突とも思える徳川氏への改姓、そのもとになった源氏姓へのこだわり。さらには秘密めいた幼年期、正妻と長男を死に追いやった凄惨な事件など、史実では解き得ない謎があまりにも多い。史学上は黙殺された所伝や埋もれた史料、さらには家康本人とされる証言をくわしく読み解き、それから導き出した異色の歴史エッセイ「双子家康」が歴史の闇に隠された真実をあざやかに解明する。
東京を脱出して「つくる暮らし」を始めた小説書きが、勢い余って丸太の「家づくり」に手をだした。まるっきりのシロウトがログハウスをセルフビルドするのだから、ことがすんなりすすむわけがない。はたしてそれは無謀だったのか。完成までの一部始終と25年後のいまを、370点余の写真をまじえて語る「作家による家作り」ビジュアル・体験エッセイ。
都会では出来ない「つくる暮らし」をつづけて30年。それらのすべては「木工好き」から始まった。セルフビルドしたログハウスで供される「手づくり家具」のあれこれを、720枚余の写真をコラージュ&レイアウトして紹介する小説書きのビジュアル・体験エッセイ。