やっと書き上げたので一人でお祝いした。東京に住んでいたころだったら、即、街の灯りを求めて飛び出していただろう。地元で飲みはじめて収まるわけがなく、朝になったら新宿か、銀座か、なんてことが何度かあった記憶がある。
いまでは飛び出そうにも街の灯りは数キロ先だ。車を使ったら飲めないし、第一、そんな体力気力もありはしない。雨に降り込められ、暮れなずむ谷間にむかって、一人しずかに祝杯をあげておしまいにする。
そうした谷間に住みはじめたのは、昭和最後の秋に東京を離れて5年後のことだ。以来、平成が過ぎ、令和という時代になり、いつの間にか25年も経ってしまった。つまり四半世紀前のことで、それを区切りとして『つくる暮らし 家づくり編』を書き出した。
「……住んでいた借家から5キロほど山奥に入った戸数60数戸、人口260余人の典型的な山村。6つある地区内の平らな土地、それは坪と呼ばれていて、その一つは1キロあまりの谷間の南斜面に10戸ほどが点在し、対岸の北斜面に天然氷をつくる氷池、という厳寒地だった。
当時、一軒だけあった雑貨屋はほどなく閉店。以来、商店なし、自動販売機なし。県道沿いに公衆電話ボックスがひとつあったが、いつの間にか撤去されてしまった……」
という谷間ではじめた「家づくり」が主題。しかし都会から移住したシロウトが、よりによって丸太づくりの家をセルフビルドするのだから、ことがすんなりすすむわけがない。そのせいか原稿のすすみ具合もかんばしくなく、起稿が去年の正月だから、かれこれ1年半もかかってしまった。
そのわりに書き上げた原稿は、400字詰め250枚ほどとそれほどの量ではない。これまで書いた長編小説なら半分程度で、単行本なら150ページほどだろうか。しかし仕上げた原稿が2倍ほどにふくらんでいるのは、大量写真の挿入という事情があるのだ。
家をつくろう、と決めてから引っ越すまでを書き綴り、その補完のためにおよそ370枚の写真を93ページにレイアウトした。もちろんセルフビルド中の写真が大半だから、当然のように25年前、フイルム撮影したもので、そのネガ探しからはじまり、スキャンしてのデジタル化という作業がある。
しかもこれらの写真をレイアウト崩れのないようページ処理するのが大仕事だったが、まあまあ、本書の特長として効果があったように思う。そんな何ページかをスライドショーにまとめたのでご覧いただこう。[metaslider id=1734]
とにかく脱稿させたが、これからの校閲・校正作業がけっこう大変。PC画面で間違い探しを徹底させるのはもちろん、プリントアウトした原稿とタブレットに入れたEPUB原稿を読み合わせる、という方法で完全を期している。
広告コピーふうに言うなら「作家の家作り」ビジュアル体験エッセイとでもなるのだろうか。今月中には配信する予定です。ご期待ください。