最近はコピーやクローン、ときにはスキャンとも言ったりするようだが、ずっと昔のカメラマン時代にはデュープと呼んでいた。
もう50年以上前の話になるけど、勤めていた写真部室に一畳ほどの大きなネガ見台が置いてあった。つまりスライドビュアーのことだが、カメラマンやラボマンの4,5人が共用できるようにと設けられたもので、ときにはディレクターやデザイナーが集まっての打ち合わせテーブルにもなった。
「よし、この写真に決めましょう。クライアントの説明にはオリジナルは持っていけないので、明日までにデュープしておいてください」
といった具合だった。もともとは「duplicate」だろうけれど、複製する、と言う意味に使われ、紙の写しが「コピー・Copy」だったのと違い、写真原版の複製のみデュープと称したように覚えている。
そうしたカメラマン時代に撮り貯めたポジ写真が山のように保存してある。そのすべてが予備原版、つまり販売したり使用したりしたオリジナルとは違うフィルムだから、アングル違いのほか、ピントや露出が甘かったりするが、まったく使えないわけではない。
これまで配信してきた電子書籍の表紙に、そうした写真をいくつか使用したが、ほとんどが35ミリ原版だった。格安に市販されている写真スキャナーを使ったからで、数多く保存された6×6判や6×9判のポジフィルムをデュープするには、大きな写角をもったスキャナーが必要だった。これがすこしばかり高価なのである。
そこで作ることになった。買えないからつくるは、もっとも得意とするところなのだ。
5ミリ厚の栗板を使い、それぞれの部所にあわせて切断する。6×9判が収まるよう長方形につくり、丸い穴の部分にカメラを乗せる。
出来れば「あられ組み」したいところだが、別に力もかからないので木工ボンドで接着し、四隅の角に補強材を貼り付けた。
内部を反射防止のため黒色にスプレーしたが、たまたま鉄瓶補修に使った耐熱塗料が残っていたのでこれを吹き付ける。艶消し塗料だったのでちょうどよかった。
使用方法といっても特にない。スライドビュアーにポジフィルムを乗せ、余分な光のカットとカール防止のため、黒紙か黒いプラスチック板製の覆いで押さえておく。
あとは上部の穴にデジカメを乗せてシャッターを押すだけ。すべてがデジカメに搭載されたマクロ機能とオートフォーカスにお任せだし、レリーズが付けられないのですこし心配したけど、このデジカメには手ブレ防止も備わっているのだ。
かくて買うつもりだった高価なスキャナーより、手持ちのデジカメのほうが高解像度、というおまけ付きで、死蔵していたポジフィルムのデジタル化に成功したのだった。
と、ここで気がついたが、ポジフィルムからのデジタル化となれば、正確には「複製」ではないわけで、やはり「スキャン」と呼ぶのが正しいのか。