4年ぶりの大雪があったり、きびしい寒さがつづいた今年は、ひさしぶりに日光らしい冬を味わった。例年、マイナス10℃ほどだった最低気温がマイナス12℃近くを記録したし、真冬日(昼間の気温が0℃以下)が何日間もあったが、ここ2,3日の暖かさですこしずつだが春めいて来たようだ。
母屋の北側には凍りついた雪がのこっており、このぶんなら3月の声を聞くまで融けずじまいになりそうだ。そんな気候だから「まだちと早いかな」と思いつつ春をみつけに散歩としゃれこんだ。2月中旬ごろ顔を見せるはずの「ふきのとう」探しだ。
目指す「ふきのとう」は、わが家の背後につづく休耕地に生えてくる。東西にのびる谷間の南斜面ぎわのわずかに平地だが、どうやら水が湧くようで畑地にむかないのだろう。ミミズを狙うらしいイノシシがいつも掘り返しているような場所だ。
探すまでもなかった。枯草の間を歩きはじめると、ぽつぽつと緑いろが見えてくる。野ふきの花芽だから大きさは親指ほどしかなく、指先でつまんでねじり採ると、ほろ苦さがまじった香りがプンとあたりに漂う。いくぶんか青臭さも感じるが、それこそが春の匂いなのだろう。
野生のふきはアクが強い。採取したらすぐに水に晒したり、さっと茹でたりするようだが、わが家ではそうした工夫を一切しない。一番外側の黒くなった葉を取り除き、ざくっと刻み、そのままごま油で炒め、酒、砂糖、顆粒出汁、最後に味噌を加えるだけ。いつもこのレシピでさわやかな苦みを味わうのである。
ちなみに日光地方では、山椒の若葉(木の芽)の佃煮が名物だが、私はどうもこれがいけない。ほんの少しでも口にすると、腹具合が必ずゆるくなってしまう。ところが不思議なことに「ふきのとう」はまったく大丈夫。アクもかなり強いはずだが、山椒のそれとは性質がちがうのだろうか。
ともあれ今年も春の苦みを味わった。冬眠の穴から這い出した熊は、一番初めに水辺に生えた「ふきのとう」を食べるらしい。春の苦みが冬眠のストレスを癒し、山野をかけめぐる活力を与えるのだろう。それに倣ってこちらも、そろそろ冬眠明けにするとしようか。